弁護士のコラム一覧

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不倫を許すという選択は本当に正しいのか

不倫を許すという選択は本当に正しいのか

はじめに

配偶者の不倫が発覚したとき、多くの人は「離婚するか、しないか」という二択で考えがちです。

しかし実際には、その前段階として、もっと重い問いが存在します。それが、「この行為を許すのか、許さないのか」という問題です。

不倫を許すという選択は、周囲から「大人の対応」「家庭を守る判断」と評価されることもあります。

一方で、その選択が長期的に本人の心身にどのような影響を及ぼすのかについては、十分に語られていないのが現状です。

本コラムでは、感情論をできる限り排し、不倫を許すという行為が持つ現実的な意味と、その代償について整理していきます。

不倫を「許す」とは何を意味するのか

不倫を許すという言葉は、一見すると非常に分かりやすいようで、実は曖昧な概念です。

多くの場合、「関係を続けること」と同義で使われますが、両者は必ずしも一致しません。

許すとは、怒りや失望が完全に消えることを意味するわけではありません。また、過去の出来事をなかったことにする行為でもありません。

それにもかかわらず、現実には「許したのだから、もう蒸し返すべきではない」と自分に言い聞かせてしまう人が少なくありません。

この自己抑制が続くと、本来表に出るべき感情が内側に溜まり、後になって別の形で噴き出すことがあります。不眠や不安、慢性的な緊張状態など、精神的負担として表面化するケースも珍しくありません。

不倫を許すという選択は、単なる態度表明ではなく、長期にわたる心理的プロセスを引き受けることでもあるのです。

なぜ人は不倫を許してしまうのか

不倫を許す背景には、単純な愛情だけでは説明できない事情があります。

経済的な不安、子どもへの影響、長年積み重ねてきた生活を失うことへの恐れ、あるいは、「自分にも至らない点があったのではないか」という自己責任意識です。

特に日本社会では、家庭内の問題を外に出さず、我慢によって解決しようとする傾向が根強く残っています。

その結果、本来責任を負うべきではない側が、関係維持のために過度な負担を背負ってしまうことがあります。

許すという判断が、自分を守るためではなく、「状況を壊さないため」の選択になっていないかを見極めることは非常に重要です。

許した後に生じやすい現実的な問題

不倫を許した後、最も多く聞かれるのが「以前のように信頼できなくなった」という声です。表面上は日常が戻ったように見えても、心の中では常に警戒心が働きます。

スマートフォンの通知、帰宅時間の変化、些細な態度の違い。それら一つひとつが、不安を刺激する引き金になります。

この状態が続くと、相手を監視する自分自身に嫌悪感を抱き、自己評価が低下していくこともあります。

また、許された側が「一度許された」という事実を軽視し、再発防止への努力を怠るケースもあります。

明確なルールや再発防止策を設けないまま関係を継続することは、同じ問題を繰り返すリスクを高めます。

法的観点から見た「許す」という行為

法的に見ると、不倫を許したからといって、直ちに権利が消滅するわけではありません。

ただし、その後の行動や合意内容によっては、精神的損害の評価に影響が出る可能性があります。たとえば、不倫の事実を認識した上で長期間同居を継続し、特段の条件設定や抗議を行わなかった場合、
 

「一定程度の受容があった」と解釈される余地が生じることもあります。

感情的な判断を急ぐ前に、自身の立場や将来的な選択肢を整理しておくことは、決して冷たい行為ではありません。むしろ、自分を守るために必要な準備と言えるでしょう。

許さないという選択もまた一つの判断

不倫を許さない選択は、決して逃げではありません。それは、自分の尊厳や限界を正直に認めた結果でもあります。

関係を続けることだけが「成熟した対応」ではありません。傷ついた状態で無理に前向きになろうとすることが、さらなる自己否定につながる場合もあります。

重要なのは、どの選択が自分にとって長期的に耐えうるものかを見極めることです。

おわりに

不倫を許すかどうかに、唯一の正解は存在しません。しかし、その判断が「誰のための選択なのか」は、常に問い直す必要があります。

世間体や相手の都合ではなく、自分自身がこの先の人生をどう生きたいのか。その視点を失わないことが、最も重要なポイントです。許すという選択も、許さないという選択も、どちらも尊重されるべき判断なのです。

 

【弁護士佐々木一夫の視点】

弁護士の佐々木一夫です。 本コラムでも触れられている通り、不倫を許すか否かという問いに、万人に共通する正解はありません。最終的には、ご自身の人生をどう歩みたいかという、あなた自身の意思が最大限に尊重されるべきものです。

しかし、弁護士としては「許す(再構築を選ぶ)」ことと、「権利を行使すること」は別問題だということを指摘しておきます。不貞行為によって深い傷を負った場合、その精神的苦痛に対して慰謝料を請求することは、法的に認められた極めて正当な行為です。 この請求は、配偶者だけでなく、不倫相手に対しても行うことができます。たとえ離婚を選択しなくても、けじめとして不倫相手に責任を取らせることは可能です。

また、2度と連絡や接触を取らないことを約束させたり、再発の場合の違約金などを定めることによって、今後の再発防止に役立てることもできます。

記事にもあるように、曖昧なまま関係を続けることは再発のリスクを伴います。だからこそ、法的な手続きを通じて明確なルール(示談書や誓約書)を作成し、責任の所在をはっきりさせ、再発防止策も盛り込むことが重要です。それが結果として、あなたの心の平穏を取り戻し、真の意味で「前を向く」ための土台となることもあるのです。